- ウェルスパス投資顧問代表 渡邉
- 複数の大手外資系証券会社で日本株式ディーリング業務に計20年以上従事。運用結果がシビアに評価される中で最大1,000億円の運用を任される。特に、成長株の分析及び投資戦略が得意。
現在は、ウェルスパス投資顧問(関東財務局長(金商)第3014号、一般社団法人日本投資顧問業協会所属)の代表 兼 銘柄分析者 兼 投資助言者として会員へアドバイスを行う。
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厳しい様相を見せる国内の経済情勢、労働に対する価値観の変化、ワークライフバランスを重視する傾向……このようなことを背景に、近年「FIRE(経済的自立/早期退職)」が注目を集めています。
このFIREとは、いったいどのようなものなのでしょうか。
今回は、このFIREにスポットライトをあて、FIREとはそもそも何か、FIREを実現するために必要なことは何か、そしてその実現に向けたステップはどのようなものかについて、FIREを実際に達成した方の実例も踏まえつつ、解説していきます。
【結論】FIRE達成には「資産運用の知識」が必須
資産運用についてきちんと理解することで、資産の適切な組み合わせの選択ができるなど、FIRE(経済的自立/早期退職)という目標達成に近づくことができます。つまり、FIREを目指す方にとって資産運用は学ぶべき必須科目です。
具体的には、どのような資産があり、経済的目標の達成にそれぞれがどのように役立つかを理解することが重要です。
資産には株式、債券、不動産、現金などさまざまな種類があります。そして、それぞれの資産には、メリットとリスクがあります。例えば、株式は債券よりも価格変動が大きい傾向がありますが、より高いリターンを期待することができます。不動産は安定した収入を得ることができますが、維持費やメンテナンス費用がかかります。現金は安定した資産ですが、インフレが進むと価値が下がる可能性があります。
資産運用は、資産の性質やリスクを正しく把握した上で、ポートフォリオ組成することが成功する鍵の一つとなります。
FIREとは?
ここではFIREについて今一度、確認しておきましょう。
FIREとは、Financial Independence, Retire Earlyの略で「経済的自立、早期引退」を意味します。FIREを実現するためには、引退後は投資で生計を立てて二度と働かなくていいように、十分なお金を貯めることが目標となります。
FIREの起源
まずは労働者の雇用についての歴史を振り返ってみましょう。
産業革命初期のこと。当時、労働者の年齢層は非常に若く、だいたい40代前半で退職を求められるケースがほとんどでした。この時代の仕事の多くは体力を必要とし、肉体的にも厳しく、年を取るにつれて仕事をこなすことが難しくなり、退職を求められる年齢も今よりずっと若いものだった、というわけです。
しかし、産業革命が進み、肉体的な負担が少ない仕事が増えてくると、この状況は変わり始めます。労働者はより長い期間、労働に従事することができるようになったのです。
さらに、医学の進歩で寿命および健康寿命が伸びたことにより、労働に従事できる期間はさらに長くなりました。
ここで、労働に生きがいを感じ、できるだけ長く働き続けたいという考え方をする人がいる一方で、21世紀初頭ごろから、従来の定年まで待たなくても良いのではないか、と考える人も出てきました。
そういったなか、このFIRE(経済的自立/早期退職)ムーブメントが米国から始まり、2010年代には欧州や日本へとその流行が拡大していきました。FIREムーブメントの隆盛には、ブログやオンラインフォーラムなどといったゼロ年代以降のメディアでの情報共有が一役買ったとも言われています。
FIREを達成するための方法はいくつかありますが、最も一般的なのは、引退までにできるだけ多くのお金を貯めて、引退後も受動的な収入を得られるように投資をすることです。これは、賃貸不動産や配当付き株式への投資などを通じて実現可能です。
どのような方法であれ、経済的自立を達成し早期に退職することで、長い人生においてあらゆるメリットを享受できるようにする、という目標は同じです。
FIREと早期リタイアの違い
FIREに関連して、早期リタイアとFIREはどう違うのか疑問に思われるかもしれません。実はそれぞれに違いがあります。
FIREと従来から行われてきた早期リタイアとの一番の大きな違いは、それぞれを達成する年齢です。
FIREは一般的に30〜40代で早期退職する人を指します。一方、早期リタイアは一般的に65歳という従来の退職年齢より若干早く退職する人を指します。
また、それぞれの達成プロセスにも違いがあります。
FIREを達成する資産を貯めるまでには、一般的に、収入の50%以上という大きな割合を貯蓄する必要があります。
一方、早期リタイアは年金制度が充実している人や、仕事以外の収入源が現役時代から既にある人が達成するのが一般的です。
4%ルールとは
FIRE(経済的自立/早期退職)を達成するためには、「4%ルール」に従うことが望ましいと言われています。この「4%ルール」は非常に重要な要素です。
退職後も資産を目減りさせることなく暮らしていくためには、毎年ポートフォリオ(自身が決めた金融商品の組み合わせの資産)の取り崩しを4%に抑える必要がある、というもの。
たとえば、投資元本が1億円あったとします。この場合、年間支出を1億円の4%にあたる400万円に抑えれば良い、ということになります。今のライフスタイルを維持するために必要な生活費から逆算して、必要な投資元本(つまりFIRE実現までに貯めるべき金額)を決めることもできます。
ただ、毎年ポートフォリオからの取り崩しを4%に抑えるだけでは、インフレをはじめとする経済情勢の変化についていけない可能性があります。退職後の計画を立てるときには、このことを考慮に入れておくことが重要です。
また、退職後に発生する可能性のある予期せぬ出費を考慮に入れていません。予期せぬ出費をカバーするためのコンティンジェンシー・ファンド(緊急時に対応するための投資信託)を用意しておくことが重要です。
4%ルールは退職後の生活設計に役立つ指標とはなりますが、これはあくまで、FIREムーブメント発祥の米国における経験則です。実際に必要な老後資金は異なる可能性があるということを覚えておくことも大切です。
FIRE達成者の例
ここでは実際にFIREを達成した方々の事例をいくつかご紹介します。ここで紹介する方々のご職業は「ブロガー」「大手グループ会社員」「副業ワーカー」と様々です。
達成者1:おけいどん(元・サラリーマン、現・ブロガー)
40代男性でサラリーマンをしながら資産を形成し、高配当株を中心とした投資を行ってきたことなどにより、資産約1億円、年間配当金120万円とともに、2020年10月末にFIREを実現しました。
現在はブロガー、投資家、物書きなどをされており、単行本を2冊出版、コラム連載および寄稿などメディアで活動、ブログも運営しています。
おけいどんさんがFIREを達成するために用いた方法を紹介します。
現在は、世界30ヶ国(主に日米)の高配当および増配株に投資、リート、ETFを行っています。自動的に入ってくる不労所得を増やすための方法であり、配当金で得た収入を再投資に回すことで、配当金を最大化する戦略です。
座右の銘が「ケチは財を成す」と言うほど節約を徹底して行っており、節約で浮いたお金を株式投資に回し、それを資産運用で増やすという戦略を取っています。
その様々な節約方法はご本人の著書で詳しく書かれていますので、気になる方は参考にするのも良いでしょう。
達成者2:穂高唯希(元・三菱グループ会社員、現・農業)
30代男性で三菱グループの会社員として働きながら、高配当株・連続増配株に投資し金融資産約7,000万円を達成し、2019年30歳の時にFIREを実現しました。
現在は都会から自然環境が豊かなところへ移住し、文筆業、配当金、農業などで収入を得て、その時々でのんびりとやりたいことをやりながら生活をされているそうです。
穂高さんがFIREを達成するためにどのような行動をしたのか、簡単にご紹介します。
コンビニでの買い物は避ける、飲み物は買わず水筒を持ち歩く、プールは公共施設を利用する、などのような節約術を駆使していたとのことです。これらはあくまで支出の最適化であり、「自分にとってこれは本当に必要なのか」をよく考え、必要以上に切り詰めるといったは節約はしていないとのことです。
主に米国株を中心のポートフォリオを組み、給与の約8割、ボーナスはほぼ全額を投資に当て、運用していたそうです。
その他にもできることはとことんやっていたそうですが、会社員として働きながら投資をし、たった30歳でFIREするというのは、並々ならぬ努力があったと思われます。
穂高さんは「FIREというのは、あくまで人生の選択肢を増やす手段の1つです。FIREをめざす人・めざさない人、どちらの方々にも言えることだと思いますが、まずは自分や家族のことを深く知り、何を成し、どういう人生を描きたいのか、とことん掘り下げてみる。まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか。」とおっしゃっています。
達成者3:ぽんちよ(元・会社員、現・副業ワーカー)
ぽんちよさんは1993年生まれの男性で、節約と副業活動を通じて投資金を捻出し、目標資産の5000万円を達成し、2022年3月にFIREを実現しました。
当時28歳年収350万円の会社員であるにもかかわらず、2年間で総資産を2622万円(2021年4月)にまで膨らませたという実績をお持ちです。
現在も副業や投資で収入を得ていますが、会社員時代から「【投資家】ぽんちよ」として投資系Youtubeチャンネルを開設し、投資に関する知識をわかりやすく発信し、収益化に成功しています。
ぽんちよさんのFIRE達成方法は主に以下の通りです。
貯め続けた資産を投資に回すことで、総資産を増やすことに成功しており、実際に行っていた投資手法は主に3つの戦略に分けられます。
- インデックス投資:米国の主要企業500社の株価に連動する「S&P500」関連の金融商品を中心に投資
- ドルコスト平均法:ドル・コスト平均法を用いた定額購入を実践
- 個別株投資
節約生活で貯めたお金や副業で得た収入を投資に回しています。会社員時代には、住居は社宅を利用することで居住費を節約をしたり、月の生活費を家計簿に付けて、目標の数値をクリアできているか日々確認していたそうです。
また、ぽんちよさんは現在に至るまで積極的にYouTuberとして活動しており、その他にもブログやポイ活、せどりなど、様々な副業を行い、その収入を投資に回しています。
FIRE達成に必要なこと
FIREをどう実現するかという問いに対し、共通の答えはありません。職業や年齢、実現のための手段(収入の増加/支出の削減/投資による増加)によっても、答えは異なってきます。
しかし、経済的自立を目指す上で必要となる一般的なステップというものは存在します。ここでは、それをいくつかご紹介します。
必要なこと1:収入を増やす
まず、FIRE達成のためには収入を増やす手段を考えます。この際、ご自身の現在の職業から考えてみましょう。
一般的に、高収入の職業に就いている人の方が早くFIREを達成できると考えられます。
現在の本業でFIRE達成という目標に届かない場合は、収入を増やすために必要な昇格や資格取得を目指したり、高収入の職業・職種への転職を考える必要があります。副業を始めたり、無理のない投資を始めるのも一つの方法です。 次に、自分の年齢を考えてみましょう。
年齢が若ければその分、退職までに貯蓄や投資をする時間的余裕があります。収入を増やしていく選択肢も様々に考えることができます。
一方で年齢が高ければ、現時点で収入を増やす選択肢があるのか考える必要があります。場合によっては、収入を増やすことよりも、支出を減らすことに重きを置く必要があるかもしれません。
最後に、FIREをどのように実現したいのかを考えてみましょう。ここであげた「収入を増やす」ことに重きを置くべきか、それとも、支出を減らすことに重きを置くべきでしょうか。自分の職業、年齢、実現のために重きを置きたい手段をよく考えて理解することで、FIREの実現に近づきます。
必要なこと2:支出を減らす
FIRE(経済的自立/早期退職)を達成するために重要な支出を減らす方法はたくさんあります。
支出を減らす方法のひとつは、自分の予算をよく見て、どこを削れるか確認することです。例えば、外食を減らす、高価な服を買わない、交際費を減らすなどです。
また、通信費や光熱費など、毎月発生する費用も安いプランに変更できないかなど契約を見直したいものです。
そして、買い物に気を配りたいところです。買い物をする際は、本当に必要なのかどうか、それがなくても生活できるのかなど冷静に考えてみましょう。衝動買いをしないことも、支出を減らすことにつながります。
このように、支出習慣を少し変えると支出が減り、経済的自立のための資金を多く準備することができます。
必要なこと3:運用の知識をつける
FIREを達成するためには、資産運用についてよく理解し、知識を身につけることが重要です。そのためには、資産運用に関する書籍や記事、ブログ、ウェブメディアを読んだり、ファイナンシャルアドバイザーに話を聞いたり、講座・講演会やセミナーを受講する方法があります。最近では、SNSで情報を得られるケースもあります。
- 書籍・新聞・雑誌
- ウェブメディア
- ブログ
- セミナーや講演会
- SNS など
資産運用にはポートフォリオやリスク、国内や世界情勢の見通しなど考慮すべき要素がたくさんあります。しかし、基本的な知識を身につけていれば、資産運用の目標達成への近道となるはずです。
ただし、現在の仕事が忙しく、勉強する時間がないというケースもあるでしょう。そのような場合は、生活習慣を見直して、朝活など勉強する時間を確保します。また、移動時間に本を"聴く"など、音声コンテンツを活用して知識を身につける方法もあります。
FIRE達成までのステップ
ここまでに述べてきたように、FIREを実現するためには、職業や年齢、あるいは収支の現状、資産運用の知識の有無などによって、その手段や道筋は様々です。そのなかでも、FIREの実現に向けた基本的なステップというものは存在します。
ここでは、そのようなFIRE実現のためのステップを5つに分けて見ていきます。
ステップ1:FIRE達成の目標年齢を設定する
FIREを達成するためには、まず目標年齢を設定する必要があります。目標年齢を設定することでモチベーションを高め、より集中して行っていくことができます。
そして目標年齢を設定した後は、その目標年齢に向けた行動計画を立てることが重要です。
目標年齢までに残された年数で可能な限り多くのお金を貯めることや、受動的な収入を生み出すことのできる資産に投資することといった行動のプランニングのこと。
貯蓄と投資を上手くすることができれば、目標年齢より早くFIREを達成することも可能です。
ステップ2:退職後の生活費を予想する
FIREの計画をきちんと立てるためには、リタイア後の毎月の生活費をきちんと見積もることが重要です。つまり、「自分自身がいつまで生きられるか」「毎月の生活費がいくらかかるか」「ライフステージの変化によりどのくらい支出があるか」などを想定しておきます。
これは複雑な作業で、さまざまな要素を慎重に検討する必要があります。現在の年齢、健康状態、ライフスタイル、家族構成など、生活費に影響する要因はさまざまです。
さらに、退職後の希望する場所での生活費、退職後に発生する可能性のある収入や支出の変化も考慮することが重要です。
また、「サイドFIRE」と呼ばれるスタイル、すなわち退職後も仕事を続けて貯蓄・資産の目減りを補う選択肢もまた、考慮しておきたい事項です。
ステップ3:運用に必要な金額を計算する
3つ目は、投資に必要な金額を計算することです。投資に必要な金額とは、投資の元金だけではありません。その後の資産運用自体にもコストがかかります。
たとえば、アセットマネジメントです。アセットマネジメントとは、目標を達成するために資源をどのように活用するのが最善かを決定するプロセスのことを言います。ここでの目標とは、リスクを最小限に抑えながら投資に対するリターンを最大化することです。
そのようなアセットマネジメントにかかるコストを計算する際には、考慮すべき多くの要因があります。資産の種類・数・場所・年数・状態などです。
さらに資産運用のコストは、どのような資産運用戦略を取るかによっても変わってきます。一般的にアクティブ(積極的・能動的)な資産運用戦略は、パッシブ(消極的・受動的)な資産運用戦略よりもコストが高くなる傾向にあります。
例えば、アクティブな資産運用戦略ではプロの資産管理者に依頼して、リソースの最適な使用方法について意思決定をしてもらうことが考えられるでしょう。一方、パッシブな資産運用戦略ならば、単に資産を分散ポートフォリオに投資し、長期的な視野でリスクに備えるにとどめるだけで良いかもしれません。
結局のところ、資産運用のコストはさまざまな要因に左右され、大きく異なってきます。これらの要因を全体的に検討することで、運用に必要な合計金額も見えてきます。
ステップ4:必要な金額を確保するための収入・支出を計算する
FIRE実現に向けて、毎月必要な金額を確保するためには、収入と支出を計算する必要があります。
そのためにはまず、最低でも1ヶ月の支出を記録し、支出を正確に把握しておく必要があります。この情報があれば、目標達成のために毎月いくら稼ぐ必要があるのかが明確にわかり、毎月十分な貯蓄ができるように予算を立てることもできます。
ステップ5:設定した収入・支出に従って暮らす
最後のステップは、設定した収入と支出にしたがって生活を続けていくことです。
せっかく貯蓄目標を設定しても、資金管理が甘く目標達成が難しければ、その分、FIREの達成からも遠のきます。そのため、設定した収入・支出に従って暮らすことが大切です。
ここでの収入や支出の設定は、現実的で達成可能なものにすることが重要です。これにより、決めたことを守り続けていける可能性が高まりますし、不測の事態や状況の変化に応じて、軌道修正しながら目標に到達することができます。
また、生活を続けていく中でも、収入と支出の記録は続けましょう。入額や収入以上の支出をしていないことを確認し、必要に応じて調整を図ります。
そして、できるだけシンプルな生活を心がけ、できるだけお金を貯めるようにします。そうすれば目標をより早くFIREを達成して、より早く退職することができます。
まとめ
21世紀に入ってから、注目されるようになったFIRE(経済的自立/早期退職)。これを実現したいのであれば、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。
目標年齢の設定、老後の生活費の予測、投資に必要な金額の計算、これらを行い、設定した収入と支出に応じた生活をすることが重要です。
正確な知識に基づきつつこれらを適切に実行すれば、快適なリタイアメントへの道が開けることでしょう。