年金は将来もらえないもの?その真偽と未来設計のためのチェックポイントまとめ

年金の保険料をいくら納めていても、老後にもらえない可能性があるという話を聞いたことがある人も多いでしょう。

十分な金額の年金をもらえないと思うと将来の生活が不安になりますが、この噂は本当なのでしょうか。この記事ではその真相を明らかにし、ずっと安心できる未来設計をするために押さえておくべきポイントを紹介します。

年金制度の仕組みを理解しよう

年金がもらえるかどうかを考える上では、まず年金制度の仕組みを知っておく必要があります。

「年金が受給できないかもしれない」という不安がある人は、年金について「保険料を払うと老後にお金をもらえる」といった程度の認識しか持っていなかったり、制度の仕組みを正しく把握していないケースもあります。

ここでは、日本の年金制度について詳しく理解しておきましょう。

日本の年金制度は「3階建て」

日本の年金制度は「3階建て」の構造になっているのが特徴です。

1階が「国民年金」、2階が「厚生年金」、3階が「私的年金」で、国民年金を基礎にして厚生年金、私的年金を上乗せしていくことで充実した年金を受給できるようになる仕組みになっています。

3階 私的年金 私的年金は以上の公的年金では不足する部分を補うために個人が加入する年金です。自助努力として制度化されていて、給付額は加入した年金の種類や納付額などで変わります。
2階 厚生年金 厚生年金は会社員や公務員などが加入する年金です。勤め先が保険料を折半するのが基本になっていて、在職中の給与額や厚生年金への加入期間などによって給付額が決定されます。
1階 国民年金 国民年金は20歳以上60歳未満の全ての国民が加入することが求められている年金で、基礎年金とも呼ばれています。給付額は納付した月数によって決まり、40年間納付すれば満額になります。

このように、年金は1階から3階へと積み上げることができます。日本でよく不安がられているのは1階と2階の「公的年金」の部分です。

公的年金の種類

公的年金と聞くと、真っ先に「老齢年金(国民年金と厚生年金のこと)」を想像する人が多いですが、公的年金には他にも「遺族年金」と「障害年金」もあります。遺族年金や障害年金は、生活保障の目的で制度化されています。

遺族年金とは
公的年金の被保険者が亡くなった際に遺族が受給できる年金です。国民年金に加入していれば遺族基礎年金が給付され、厚生年金に加入していると遺族厚生年金が加算されます。給付額は被保険者の給与額や遺族の子の有無、年齢などによって決まります。
障害年金とは
所定の障害によって被保険者が生活に窮するようになった際に支給される年金です。国民年金の加入者は障害基礎年金のみですが、厚生年金の加入者には遺族厚生年金も支給されます。障害等級と子の有無などで給付額が決定されるのが特徴です。

老齢年金をはじめ、遺族年金や障害年金は、保険料を納めていなければ受給できません。国民年金の加入者は自分で保険料を納付するので、未払いのままにしてしまうと万が一のときに保障を受けられないので注意が必要です。

年金制度が破綻?年金が将来もらえないのは本当か

年金が将来もらえなくなるという噂が本当だとしたら、その原因として「日本の年金制度そのものが破綻してしまうからではないか」と考える人もいるでしょう。

そもそも公的年金が仕組みとして成り立たなくなるのであれば、いくら年金保険料を納めても老後に受給できなくなる可能性があります。

今後のライフプランを考えるうえで、公的年金が今後どうなっていくのかを確認しておきましょう。

公的年金が簡単に破綻するようなことはない

結論から言うと、公的年金が破綻する可能性については極めて低いと考えられます。

公的年金の破綻を懸念しているケースでは、年金制度が「積立貯蓄」と同じような構造であるという誤解をしていることもよくあります。

積立貯蓄はお金を金融機関の口座に毎月少しずつ預けていき、満期になったらその口座の残高を使えるというのが基本的な仕組みです。この方式で年金制度が整備されていたとしたら、保険料から集めたお金が尽きてしまった時点で年金を受給できなくなります。

しかし、公的年金は自分が支払った保険料を預かってもらうわけではありません

日本の年金制度の仕組み

わが国の公的年金は「賦課方式」という考え方をもとに運用されており、支払った保険料はその時期に年金を受給している高齢者に分配されます。

つまり自分が老後になったときには、その時期に現役で働いている人たちが納める保険料から年金が拠出されるので、年金を全く受け取れない可能性はほとんどありません。貯めておいたお金で年金を給付する仕組みでは破綻のリスクがあると考えて、予め制度設計されているのです。

受け取れる年金額が減る可能性はある

それでは年金は想定通りに支給されるのかというと、実はそうとは言い切れません。年金制度そのものが破綻するようなことはなかったとしても、将来的に受給可能な年金額が減る可能性はあります

今の日本では、高齢者が長生きする一方で子供の数が減っています。つまり、年金制度を担う20歳以上60歳未満の人たちの数が少なくなってきているのです。

高齢者を支える現役世代の人数

1950年の時点では、1人の高齢者の年金を現役世代12.1人でまかなっていました。しかし、2018年の時点では、2.1人で1人の高齢者を支えるようになっています。

少子高齢化の影響によってこの状況が続くと、保険料を上げるか、年金給付額を減らすかの選択を余儀なくされます。保険料率を上げるのには限界があるため、このような世代別人口のバランスが変わると年金額を減らさざるを得ないのは確かです。

年金だけで老後の生活を送るのは難しい?

予定していた通りの金額の年金を受給できない可能性があるとなると、年金だけで老後の生活を送るのは難しいのでしょうか。

現実的に考えると公的年金制度を利用するだけで生活を続けていくのはほぼ不可能と言えるでしょう。2019年の金融庁からの報告書では「老後生活が20~30年続くとすると公的年金以外の老後資金として2000万円不足する」と記載されていて、メディアでも取り上げられて大きな注目を浴びました。

あくまで金融庁の発表は試算に基づく結論なので、誰もが皆2000万円不足するというわけではありません。老後のライフプランや健康状況などの様々な要因によって経済状況が左右されるからです。

長寿命化が進んでいることから、実際には老後が30年以上続くというケースもあります。豊かな老後の暮らしを実現するためには、2000万円以上の資金を用意する必要があると認識しておいた方が良いでしょう。

年金制度はあくまでも「老後の生活資金の一部」であると考えて、理想のライフプランを実現するための資金を自分自身で準備しておくことが大切です。

老後の生活にはいくら必要?未来設計のためのチェックポイント

年金制度の状況を踏まえて、老後も安心して暮らせるような未来設計を考えていきましょう。老後の生活にいくら必要なのかを正しく把握して、準備を整えるのが重要です。

老後に予想される支出と収入を試算して差額を出せば、老後資金として用意すべき金額の目安がわかります。ここで定年退職後の支出と収入について、内容をチェックしておきましょう。

定年退職後の支出

定年退職した後の生活では、具体的にどのくらいの支出があるのでしょうか。以下では老後の基本生活費とそれ以外にかかる費用に区分して、一般的な状況を踏まえた支出額の目安について考察します。

基本生活費

老後の暮らしで必要になる基本生活費は、ライフスタイルによって大差が生じるのは確かです。

目安として参考になるのが「老後2000万円問題」の発端となった金融庁の報告書に記載されている平均的な基本生活費です。この報告書では夫65歳以上、妻60歳以上の無職2人世帯の場合には毎月約26.4万円の基本生活費が必要と試算されています。

試算と自分の場合が乖離している時は、現状の生活費から考えるのが適切です。さらに、各種ローンの返済、保険料の支払いといった、老後には支払不要になる項目があるなら、それらを生活費から除外すれば減算が可能です。

現在の支出の内訳がわからない場合は、大まかに70%~80%と考えておくのがベターでしょう。その金額に余命年数をかけた金額が老後に必要な生活費です。今は「人生100年時代」ですから、定年退職後30年は生きられると考えて試算すると良いでしょう。

基本生活費以外にかかる費用

定年退職後にかかる基本生活費以外の費用は、ライフスタイルによる影響をさらに大きく受けます。老後に旅行や趣味を楽しむつもりなら、その予算を老後資金に組み込む必要があります。毎月いくら必要かを細かく試算するのは難しいので、毎月およそ10~15万円を上乗せしておけば、より豊かなシニアライフを送れると考えておけば良いでしょう。

また、持ち家の場合には定年退職後も定期的な修繕が必要になります。日常の移動に車が必須の地域に住んでいるならば、自家用車の維持や買い替えの予算も組んでおかなければならないでしょう。

さらに、子供の結婚や出産、マイホームの購入といったライフイベントでは親として金銭的な支援をしたい場合もあります。目上の親族がいる場合には介護費の負担も覚悟しなければなりません。

このように、老後にも様々な形で大きな支出が発生する可能性があります。自分が置かれている状況を冷静に考えて、いつどのくらいのお金が必要になりそうかを計算してみましょう。

定年退職後の収入

定年退職後は、収入が完全になくなってしまうわけではありません。年金のほか、何らかの形で収入を得られる可能性があります。

ここでは老後資金の中心となる公的年金と退職金の二つについて、具体的にどのくらいの収入を得るのが一般的なのかを考察します。

公的年金

公的年金は、現在では65歳以上になれば受給できるので定年退職後の安定した収入として想定できます。現状としては平均的には国民年金なら毎月5.5万円、厚生年金なら毎月14.7万円の給付を受けられます。この金額を見ると公的年金だけで老後に豊かな生活を送るのは難しいと考えられるでしょう。

ただ、公的年金は加入している年金の違いだけでなく、給与額や加入期間などによって左右されます。重要なのは平均値がどの程度かではなく、自分の場合にいくら給付されるかです。

年金の受給額を調べる方法
日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」やオンラインで「ねんきんネット」を利用すれば見込み受給額を確認できます。国民年金に未納分がある場合なども調べられるので、もし納めていない保険料があるなら満額で受け取れるように今のうちに納めておくのも良い方法でしょう。

退職金

退職金制度のある会社で働いていた人は定年退職をしてから退職金を支給してもらえます。

退職金の支給条件や金額の算定方法、受給方法などは、社内規定で定められています。退職する段階で想定される金額がどのくらいかを確認してみましょう。

ただし、退職金の金額は年々減少傾向にあるという点には注意が必要です。

厚生労働省が実施した「平成30年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態」の第23表によると、2013年時点での大卒者の平均退職金額は1,941万円でしたが、2018年には1,788万円まで減少しています。

今後も減り続けるかどうかは定かではないものの、社内規定が改定されて減額になるリスクがあることは念頭に置いておきましょう。

退職金の受け取り方法は2種類
退職金の受け取り方については「退職一時金」と「退職年金」の二通りがあり、併用できる会社も多くなっています。金額や税金に違いがあるので、受け取り方をどうするかも考えておくのが大切です。

足りない老後資金は早めの資産運用で対策を!今から始める3ステップ

老後の30年間を考えるとどのくらいのお金が必要なのか、現段階で考えると不足分がどの程度になるかの見通しがついたでしょうか。

その理解ができたら現役で働いているうちから老後の備えをするのが大切です。 とはいえ、何から始めたら良いかがわからずに悩む人もいるでしょう。ここでは今からできる資産運用の対策を3ステップで紹介します。

STEP1:家計の支出を見直そう

老後の生活資金を準備するにあたって、まず最初のステップは現状の家計を確認して支出を見直すことです。

老後の生活を豊かにするためには、資産形成をする必要があります。資金形成では貯蓄を増やすことが第一歩です。貯蓄を増やす方法としては「収入アップを目指す」だけでなく「支出を減少させる」というやり方もあります。

家計の節約は今すぐにでも取り組める資産形成の方法です。節約して浮いたお金はそのまま貯蓄に回すことが可能だからです。

家計簿を付けると何にどの程度のお金を費やしているかが明確になります。まずは水道光熱費や家賃、通信費などの固定費をチェックしてみると、節約できそうな点が見つかるでしょう。

食費や娯楽費などの変動費を切り詰めすぎるとストレスになってしまう可能性があるので、今の生活の質を維持しつつ無駄な出費を減らせるように家計に気を配るようにしましょう。

STEP2:貯蓄をスタートしよう

支出について十分な理解ができたら、次のステップとして貯蓄をスタートしましょう。

資産形成における貯蓄は「定期預金」や「財形年金貯蓄」が代表的で、元本が失われるリスクが低くて安心な運用方法です。財形年金貯蓄のように給料から天引きで積み立てられる方法は貯蓄を管理しやすく、将来的にどれくらいの資産が形成できるかの見積もりもしやすくなります。

財形年金貯蓄とは

1ヵ月1000円以上、1000円単位で好きな金額を設定して、毎月の給与およびボーナスからの天引きで年金の貯蓄ができる制度です。満60歳以降の5年~10年の間で受け取ることができます。財形住宅との合計金額が550万円まで非課税となる点も大きなメリットです。

老後の暮らしに備えるための資金形成では、まず先に最低限必要な生活資金を準備するのが重要です。その金額までは安心できる運用の仕方をしないと、老後を迎えてから資金不足で困るリスクが高くなります。

「このまま積み立てていけば必要額を達成できそうだ」とわかったら、次のステップに進んでも大丈夫でしょう。計画的な積立を行う方針を立てると、早い段階で次に進みやすくなります。試算した結果に基づいて老後資金の必要額を具体的に考え、まずは最低限の老後資金確保を達成できる目途を立てましょう。

STEP3:お金を増やす手段を考えよう

貯蓄によって最低限の老後資金を確保できる目途が立ったら、お金を増やす手段を考えてみましょう。

現代は超低金利時代で、定期預金などを使って銀行にお金を預けていてもほとんど増えません。銀行の普通預金の金利は0.001%が一般的な水準で、100万円を1年間預けても増えるのはたったの10円です。定期預金の場合は金利0.1%~0.3%程度の銀行もありますが、それでも年間1,000円~3,000円にしかなりません。

一方、投資によって利回り5%で運用できたとすれば、1年間で5万円の利益を生み出せます。貯蓄によって余剰資金ができた段階で投資を始めて、積極的に資金を増やしていきましょう。

少額からスタートできる投資方法
近年では老後に備えて少額から始められる投資として「NISA」と呼ばれる少額投資非課税制度が注目を集めているほか、「iDeCo(イデコ)」の愛称で知られる個人型確定拠出年金もよく選ばれています。年金の不足額を補うための投資の入り口として検討してみましょう。

まとめ

日本の年金制度の仕組みを考慮すると、現役世代が老後を迎えた時に年金がもらえなくなるということはありませんが、想定しているような金額が手に入らないかもしれないというリスクはあります。老後の生活資金を試算した結果、現状でも公的年金だけでは不足するのが明らかだという人もいるかもしれません。

まずは家計の支出を見直すことから始めて貯蓄をしていきましょう。そして、余剰資金を投資によって運用して資産形成を進めるのが大切です。

低金利政策が進められている現代社会では、貯蓄だけではお金は増えていきません。NISAやiDeCoなどの比較的始めやすい制度も整いつつあるので、余剰資金ができた段階で投資を前向きに検討することをおすすめします。